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ネガティブな出来事における不確かな文脈記憶形成:その神経生物学的メカニズムとうつ病の発症リスクとの関係を解明―うつ病の予防?治療に役立つ可能性―

研究のポイント

  • うつ病※1の発症リスクをもつ人では、ネガティブな出来事を経験したときに、その出来事の全体像(文脈情報)が正しく記憶されていない。
  • こうした記憶形成の失敗は、ネガティブな情報に注意を惹き付けられているときの扁桃体と腹内側前頭前皮質(vmPFC)との間の機能結合※2と関連している。
  • 代表的なストレスホルモンであるコルチゾールが多く分泌されているほど、出来事に遭遇してから時間が経過した後に、その出来事が起きた一連の流れ(時間的文脈)を思い出せなくなる傾向がある。
  • ネガティブな情報の存在下における文脈記憶の形成不全は、うつ病の発症?増悪に密接に関与する「自伝的記憶の過剰一般化」(自身が経験した出来事の文脈情報について曖昧にしか思い出せなくなる現象)※3を介して、うつ病の発症リスクを予測説明することを初めて発見した。

概要

富山大学(学術研究部医学系の袴田優子教授)、北里大学(医療衛生学部の田ヶ谷浩邦教授ほか)、および国立研究開発法人国立精神?神経医療研究センター(精神保健研究所の堀弘明部長)等は共同で、うつ病の発症リスクをもつ人では、経験した出来事のなかにネガティブな事柄が含まれるときには出来事の全体像を正しく記憶していないこと、こうした不確かな記憶形成が扁桃体―vmPFC間の機能結合やコルチゾールの分泌量と結びついていること、さらに、より長期的な文脈記憶の想起困難である自伝的記憶の過剰一般化と繋がり、うつ病の発症リスクを高める可能性があることを世界で初めて明らかにしました。

用語解説

(※1) うつ病
一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、不眠や食欲低下、疲労感などの症状を伴い、日常生活に支障をきたす精神障害。

(※2) 機能結合
時間軸上で共通して生じる脳活動の変化から推定される2つ以上の脳領域間の機能的な結びつきのパターン。

(※3) 自伝的記憶の過剰一般化
自伝的記憶の概括化/過度の一般化とも訳される。経験した出来事の文脈(いつ?どこといったような情報)を鮮明かつ具体的に思い出せなくなる現象。例えば、「昨日隣の佐藤さんと地区で行うバレーボール大会について話をした」といった、はっきりとした特定の出来事の記憶ではなく、「私は近所の人にいつも嫌味を言われる」といったように、具体性を欠くかたちで漠然と曖昧に出来事の記憶が思い出される現象をいう。複数のメタ解析により、うつ病の発症や増悪と密接に関連することが明らかにされている。

研究内容の詳細

ネガティブな出来事における不確かな文脈記憶形成:その神経生物学的メカニズムとうつ病の発症リスクとの関係を解明―うつ病の予防?治療に役立つ可能性―[PDF, 974KB]

論文情報

論文名

Contextual memory bias in emotional events: neurobiological correlates and depression risk

著者

Yuko Hakamata, Shinya Mizukami, Shuhei Izawa, Hiroaki Hori, Mie Matsui, Yoshiya Moriguchi, Takashi Hanakawa, Yusuke Inoue, Hirokuni Tagaya.

掲載誌

Psychoneuroendocrinology

DOI

https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2024.107218

お問い合わせ

富山大学学術研究部医学系 教授 袴田優子

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