文化人類学フィールド演習
掲載内容は当時のものです。
40年以上の歴史をもつ富山大学人文学部の文化人類学研究室(正式名称は行動社会文化領域社会文化コース文化人類学分野)の最大の特徴は、フィールドワーク教育です。2年次から3年次にかけての「文化人類学フィールド演習」(平成30年度入学生までは「文化人類学実習」として履修)で、学生たちは、主に富山県内で調査地とテーマを決めて、地元の方々の暮らしや生活に潜む「知恵」や「宝」を発見すべく、現地での聞き取り調査や観察を行います。調査地やテーマを自分たちで決める過程で、自ら考えて行動する力が養われます。
文化人類学者による調査は主に海外で行われますが、富山県内で学生たちが行う調査にも専門家のそれと共通するエッセンスが含まれています。たとえば、ある学生が(実際によくあるテーマである)「祭り」を調査しているとしましょう。「○○に住む人びとにとって祭りは社会的な絆を形成し、地域のアイデンティティを確認するものとして、かけがえのない行事である」ということを「知識」として知っていることと、実際に地域の人たちに祭りにまつわる思いや記憶を(しばしば楽しそうに、あるいは熱のこもった調子で)語ってもらうことのあいだには、情報の密度として雲泥の差があります。さらに、実際の祭りを目の当たりにしたり、地域の人たちと一緒に神輿を担いだりすれば、それはもはや「知識」のレベルを超えた「経験」になります。こうした経験には、学生たちを「もっと知りたい」という気持ちにさせるパワーがあるようです。
2年間にわたる調査の成果は「地域社会の文化人類学的調査」という報告書にまとめられます。そこで書かれていることの多くは、まだ誰も文字にしてこなかった地域の大切な記録です。学生や教員はもとより、地元の方にとっても自分たちの住む地域のことを改めて知り、見直す機会になることが多いようで、報告書を配ると地元の方々から感謝のメッセージが研究室に寄せられます。1万字以上の報告書を書くことは決して簡単なことではありませんが、そうした苦労も含めて、本研究室の卒業生にとっては一番の思い出として残ることが多いようです。また、教員にとっても学生の成長を目の当たりにできるという意味で、「おもしろい」授業であるといえます。