「軍事国家」スウェーデンの歴史
掲載内容は当時のものです。
「西洋史」は主にヨーロッパ?アメリカの歴史を研究する分野ですが、私はその中でも17世紀頃のスウェーデン史を専門としています。スウェーデンと言えば福祉国家として有名ですが、17世紀においてはヨーロッパ中にその名を轟かせた軍事大国でした。少ない人口を効率よく組織化して徴兵し、うち続く対外戦争に耐えうる軍事?財政システムを持っていました。そしてそうしたシステムが、国王や貴族の専断ではなく、農民身分をも含めた話し合い(議会政治)をへて形づくられた点に、スウェーデン史の大きな特徴があります。
拙著『スウェーデン絶対王政研究』ではこのような議論をまとめましたが、ではそのような国家システムのもとで人びとはどう生きていたのでしょうか。歴史学は一次史料(同時代の記録)がなければ何も語ることができませんから、記録が残りにくい一般民衆の生活を具体的に描くのは大変難しい。ただ、幸いにして戦争に参加した兵士たちが従軍日誌を残しています。貴族によるものが大半ですが、なかには市民出身の士官や一般兵による日誌もあるため、これを読み解くことで当時の人びとの生きざまや心性に迫りたいと考えています。
今はとくにスウェーデン人捕虜の日常に注目しています。北方戦争(1700~21年)の際に捕虜となった兵士たちはロシア?シベリアの各地に送られました。土木作業に従事させられる者が多く、たとえばある一般兵の日誌からは、ロシアが既定の報酬を支払わないことに対する不満がにじみ出ています(なおこの捕虜は運よく脱走に成功しています)。その他、手に職がある者はその技能をもって日銭を稼いだり、なかにはシベリア初の学校を建てた者、ロシアによるシベリア探検に随行した者などもいて、それぞれの運と才覚によりながら未来を切り開いていきました。
国家?社会による保障がほとんどなかった時代、生きることは今よりずっと厳しいものだったはずです。それでも人々は己の持てる力を発揮し、ときに過酷な日常と対峙していました。現在とは異なる時代を見つめる歴史学は、時代を超越した「人がもつ力と可能性」を開示する学問であると確信しています。
- 教員名/入江 幸二
- 学部/人文学部
- 専門/西洋史、スウェーデン史
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