富山大学 理学部 学部案内2025
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 飼育や繁殖が容易で、遺伝的な性質が均一なラット(ネズミ)は、実験動物として新薬開発などさまざまな研究に使われている。だが、人間と違って夜行性だ。眠りにかかわる研究や、ある種のうつ病など、「光」が関与する病気の解明には、ラットより人間に近い動物が威力を発揮する。田母神さくらさんは、ラットの仲間で昼行性の「ナイルグラスラット」を使い、研究に励んでいる。▲ ナイルグラスラットるという特徴がある。また一般的なうつ病は不安で眠れなくなるのに対して、SADの患者は睡眠時間が長くなる傾向が見られる。 浴びる光の照度が足りないことが原因と考えられており、実際に光を浴びてもらう治療が試みられている。ナイルグラスラットも同様に、照度の低い環境で飼育すると、うつ病のような行動を示すことが米国の研究で示されている。 そこで田母神さんは、SAD患者に見られる「睡眠時間が長くなる」という症状に着目し、ナイルグラスラットを使って検証することにした。 明るさを変えてナイルグラスラットを飼育する。10ルクス、100ルクス、1000ルクスという3種類の環境で1週間順化させ、脳波や赤外線▲ ラットの行動を感知する赤外線  センサーを取り付けた飼育ケージセンサーを用いて睡眠?覚醒時の行動を計測、分析している。太陽光に含まれる紫外線と同じ波長の光を照明に加えた場合の変化も調べている。 脳がどのように光に反応しているかを解明しようと、細胞レベルでの神経活動性にも注目している。覚醒時に活性化した細胞の分布など、詳しく評価する計画だ。この研究紹介記事は以下の授業で作成したものです。「科学コミュニケーションII」主講師:元村有希子(同志社大学 生命医科学部 特別客員教授)担当教員:川部達哉(数学プログラム)、     島田 亙(自然環境科学プログラム)光条件を調整赤外線センサー研究者レポートインタビュアー籠浦 莉央、田中 将悟、成田 健一郎、山本 理央奈28「好き」が原動力に 田母神さんは、大好きなナイルグラスラットとこれからも一緒にいたい、いつか野生のナイルグラスラットをアフリカに見に行きたいという。 「一生生物に関わる仕事ができるように頑張りたい」。生物学は医学や薬学のように実用に直接結びつくものではないが、目の前の「なぜ?」を調べていくことが純粋に楽しく、それを大事にしていきたいと語る。 研究には楽しいことだけでなく大変なこともあるけれど、つらいと感じたりやめたいと思ったりしたことは一度もない、という。幼い頃から今まで、そしてこれからも「生き物が好き」という思いを原動力に、田母神さんはナイルグラスラットと共に歩んでいく。学生による学生のための 研究者レポート 理学部の若き研究者たちの最新情報を公開このページでは、学生が先輩たちにインタビューし、研究内容を分かりやすく紹介します。冬季うつ病解明を目指して  ~鍵はナイルグラスラット~ナイルグラスラットとの出会い 幼い頃から人間を含む動物の身体の仕組みに興味があったという田母神さん。寝たり起きたりするって何だろう? やる気が出るってどういうこと? 動物図鑑を読むのが好きだった子供時代は医者になる夢を持っていたが、「生き物が好き」との思いから、大学では生物学科に進学した。 研究室を選ぶ時期に差し掛かり、池田真行教授の研究室でナイルグラスラットと出会う。アフリカに生息する、非常に珍しい昼行性のネズミである。 富山大学では、アメリカの研究グループから譲り受けたものを繁殖させながら研究している。人間と同じ昼行性のラットを調べることで、人間をより深く理解できる。夜行性、昼行性を決めているメカニズムが分かれば、行動時間を無理なく自由に選択することができるようになるかもしれない。 日本では富山大だけが取り組む、この分野の研究に魅力を感じた田母神さんは「ここしかない」と、この研究室で頑張ろうと決めた。光環境を変えて睡眠覚醒行動を観察 取り組んでいるのは、冬季うつ病(季節性感情障害、SAD)の研究だ。一般的なうつ病とは異なり、一日の日照時間が短くなる冬に発症し、春になると症状が改善す田母神 さくら(たもがみ さくら)大学院生命融合科学教育部生体情報システム科学専攻博士課程2年出身地:宮城県東松島市好きなもの:アメリカンドッグ

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